ドバイに石油王はほとんどいない
実はドバイに石油王はほとんどいません。全くいないわけではありませんが、多くの人が想像しているよりもずっと少ないといえるでしょう。
ドバイはアラブ首長国連邦内にある都市で、周りをサウジアラビアやオマーン・イエメンなどの石油産出国に囲まれています。
中東という土地柄と石油が埋蔵されているというイメージから、「ドバイには石油王が大勢いる」と考えている方も多いのではないでしょうか?
しかし、ドバイのGDPで石油産業が占める割合は極めて低いのです。ここでは、ドバイに石油王が居ない理由を国の経済体制をもとに紹介します。
ドバイの石油産業の割合はGDPの1%〜2%程度
ドバイでは石油がほとんど採れません。まったく採れない訳ではありませんが、GDP比で見ると、ドバイのGDPの約1%から2%程度の産業規模しかないのです。
ドバイの主要産業は卸売業や小売業・貿易業で、これらの産業が GDPの約3割を占めています。アブダビの鉱山・石油採掘事業が、全体の約6割を占めていると考えると、ドバイ経済がいかに石油に依存していない産業構造であるかがわかりますね。
国家(王族)が管理して国民に分配している
中東諸国は「レンティア国家」とも呼ばれ、政府が石油や天然ガスなどの天然資源で獲得した富を国民に分配する政策を行っています。
2020年の5月23日に報道された「アラブニュースジャパン」のニュースによれば、ドバイは国民に対して、1兆5,000億ドル相当の土地と住宅を配分すると発表したそうです。
【UAE アラブ首長国連邦】
アブダビ、ドバイら7つの君主制国家からなる連邦国家。
カタールやバーレーンも含めることも検討されていた。
石油産出によるレンティア国家で、政府の保護に大きな不満もなく、アラブの春においても民主化デモの動きはなかった。— 調べ物 (@shirashiru123) September 24, 2021
このように、政府からの手厚い保護政策が、ドバイ国民から大きな支持を受けています。裕福ではない国民も大々的にサポートしてくれるのは魅力的ですね。
生活に必要なものは国が負担してくれる
ドバイの魅力は、政府が国民生活に必要なサービスやものを負担してくれる点です。
- 医療費・教育費の無償化
- 電気水道光熱費の無償化
- 土地・住宅が付与されることも
- 税金が最小限に設定されている
ドバイの公的医療や教育は無償化されていて、とくに教育費は小学校から大学まですべて無料で、さらに留学費用まで保証してくれます。このような政策を実施した結果、2018年の政府財政における教育支出は、全体の約20%にまで及んだそうです。
2018年における日本政府の教育支出が4%であったことを考慮すると、いかにドバイが教育に力を入れて国民を支援しているかがわかります。
国民は電気水道光熱費が無料で、外国人居住者も安く利用できます。さらに、ドバイでは各種の税金が無税か5%程度におさえられています。これは、外国の企業や労働者を自国に誘致する政策の一環です。
国家公務員の給与は桁違いに高い
ドバイ政府の太っ腹っぷりは、国家公務員の給与水準にもあらわれています。ドバイの国家公務員の平均月収は約85万円です。UAE政府のトップともなれば、月収が200万円を超えることもあるそうです。
低い税制や国民への土地・住宅の付与に加え、公務員に対する給与の還元によって、国の富を国民に配分しているのです。
ただし、国民全員が裕福なわけではない
国民に対してこれだけ手厚い分配やサポートを行っているドバイですが、すべての国民が裕福な訳ではありません。
ドバイ政府統計センターによれば、UAE人の平均年収は約1,400万円ですが、外国人の平均年収は約750万円でした。外国人が9割を超えるドバイにおいては、外国人の平均年収の方が、実際の経済状況を反映しているといえるでしょう。
ドバイに関する誤解とリアル
・ドバイは国→UAEという国の首長国。首都はアブダビ。
・オイルマネーで成長→石油は少ない。石油がでるのはアブダビ。
・みんな金持ち→月収6万円程度のブルーワーカーも多数。格差半端ない。
・無税天国→VATあり。観光税、酒税がめちゃ高い。所得税はない。— 進め!中東探検隊 (@Susume_ME) January 29, 2019
「労働キャンプ」と呼ばれるブルーワーカー向けの施設で生活している人に限って見れば、平均年収はたったの82万円というデータも出ています。
一部の富裕層が贅沢な暮らしをしている一方で、肉体労働者として低賃金で働いている人もいるという格差社会の現実もあるのです。
石油価格が下落して経済システムが停滞してきた国家もある
石油産出国は、良くも悪くもエネルギー価格に国の命運を左右されてしまいます。
サウジアラビアやクウェートはその典型で、世界的な脱炭素化の流れやOPECプラスの原油生産調整の影響によって、国家予算の縮小を余儀なくされている現状があります。
レンティア国家は国民に対する高福祉が魅力ですが、高福祉を維持できないと国民の不満が募り、暴動が起きてしまうという欠点もあるのです。
2011年から2012年にかけて起きた「アラブの春」は、民主化運動という縦書きで、国民の政府に対する不満が一気に爆発した結果でした。
今の段階では大規模な暴動は起きていませんが、将来的に財政が縮小して高福祉のシステムが崩壊すれば、いずれ暴動が起きることは避けられないでしょう。
石油王が多い国はどこ?どんな生活をしているの?
ドバイは石油王がほとんどいない貿易国家ですが、イメージとは打って変わって、石油王が多い国も存在します。イメージ通りの中東だけでなく、南米や北米にも石油で巨万の富を得ている石油王がいるのです。
ここでは、実際に石油王が多い国の生活と、石油王たちの生活ぶりを紹介します。
石油大国ランキング1位「ベネズエラ」
中南米にあるベネズエラは、世界で最も原油埋蔵量が多い国として知られ、2020年に公表されたデータによれば、総埋蔵量は3,038億バレルにも及びます。
ただし、近年は経済破綻の影響で、ハイパーインフレが発生。国民の生活は、日に日に苦しくなっています。2021年に行われた調査によれば、国民の94.5%が貧困層だというデータも。また、所得格差も、北南米内で最悪になるという予測もあります。
ベネズエラの石油王の息子の友達 https://t.co/Yjpz0pNLca
— シア@しえな (@TouhokuWhite) August 29, 2019
石油王の生活ぶりをうかがえる画像は少ないですが、国民の9割が貧困に苦しむベネズエラで、石油王などの一部の人だけが贅沢な暮らしをしていることがわかります。
石油大国ランキング2位「サウジアラビア」
中東の石油産出国といえばサウジアラビアです。アラブ首長国連邦と同じくレンティア国家で、原油の総埋蔵量は2,975億バレルともいわれています。
2022年のサウジアラビア経済は絶好調で、1月〜3月期は前年比で約10%も経済成長しました。ロシアウクライナ戦争の影響で石油増産調整が行われ、石油輸出が進み、経済が急速に発展しています。
また、サウジ国内では自分の名前の巨大な堀を作らせたり、412億円ものお金をかけて世界最大の旅客機を購入したりしています。有り余る莫大な資産で、手当たり次第に贅沢の限りを尽くしているという印象です。
出典:ニッポン放送
政府主導で石油関連企業を国有化して、得られた利益を国民の福祉に還元していますが、そのせいで国民の失業率が高くなっていることが問題となっています。
政府から多額の失業手当や手厚い福祉が保証されているせいで、国民は勤労意欲を失くし、失業率は12%にも及ぶといわれてますね。
石油大国ランキング3位「カナダ」
カナダは世界第3位の原油埋蔵量を誇る国で、総埋蔵量1,681億バレルです。2021年以降のカナダ経済は好調で、経済活動を回復しつつあります。
カナダのウォーターウルフという石油王が、ウルフの名前を付けたF1を製造してF1レースに参戦するなど、羽振りの良さで有名です。
ランボルギーニ カウンタック Walter Wolf (1974年)
カナダの石油王ウォルター・ウルフがオーダーメイドした特別なカウンタック。V12は4971ccに変更され、フロントスポイラーやオーバーフェンダーを装着し、巨大なリアウィングが迫力を増す。3台が製造され彼の手に渡った。後のLP400Sの道標となった。 pic.twitter.com/UtHE4JprlY— つっき〜 (@tsuzuki1110) December 18, 2020
石油産出国に比べるとドバイの経済は安定している
ドバイは石油産出で繁栄している都市ではないので、エネルギー価格で国の運命が決まってしまうことはありません。
ドバイは海運や航空貿易の世界貿易の中心として、発展してきた都市です。ドバイの2019年度の輸出金額は、前年度比で422億ドル(19%の増加)、再輸出金額は1,143億ドルで(4%の増加)と年々拡大していることがみてとれます。
また、「フリーゾーン」という経済特区をドバイ各地に設け、多国籍企業や優秀な人材を世界中から誘致する政策を推進しました。
その結果、周辺の産油諸国が原油価格の暴落に悩んでいる時期にも、ドバイは安定的な経済成長を遂げたのです。
石油はないけどドバイは豊かな都市国家